金融システム入門④ 先物取引編(金融先物の場合)
こんにちは。クラウン情報テクノロジーの増井です。
「金融システム入門」シリーズの第4回は、前回の「商品先物(大豆)」に続き、金融先物をテーマに取り上げます。
具体的には「株価指数先物」と「債券先物」です。
商品先物の原資産(げんしさん)は大豆や小豆、トウモロコシなど実際の商品でした。
一方、金融先物の原資産は 株価指数や債券 といった金融資産になります。
また市場も異なり、
- 商品先物 → 東京商品取引所(TOCOM)など
- 金融先物 → 東京証券取引所、大阪取引所(OSE)など
と分かれています。
1. 株価指数先物の仕組み
代表例が 日経平均株価先物(日経225先物) です。
- 原資産は「日経平均株価」
- 取引単位は「枚」
- ラージ:1枚=日経平均 × 1,000円
- ミニ:1枚=日経平均 × 100円(ラージの10分の1)
「現物が存在しない」という特徴
個別株(ソニーやトヨタなど)は実際に株券(電子データ)が存在します。
しかし日経平均は 225銘柄の平均値 にすぎず、現物は存在しません。
たとえるなら:
- 英語・数学・国語のそれぞれの答案用紙(=個別株)はある
- でも「3教科の平均点」(=日経平均)は数値として算出されるだけで、物理的には存在しない
👉 だから株価指数先物は必ず 差金決済(現金精算) になります。
なお、日経平均株価先物は大阪取引所(OSE)だけでなく、シカゴ取引所(CME)やシンガポール取引所(SGX)にも上場しており、世界中の投資家が24時間近く取引できる環境が整っています。
2. 商品先物から金融先物へ
前回の大豆先物のように、商品先物は農家や食品メーカーといった「実需」に根ざした取引でした。
ところが金融先物は違います。
「商品先物の仕組みを応用して、完全に投機目的に特化した金融商品を作れないか?」
――そう考えて株価指数先物や債券先物を設計した人々の発想力には驚かされます。
現物が存在しない「平均値」を原資産にして取引を可能にしたわけです。
ある意味で、金融先物は 金融工学の傑作 といえるでしょう。
3. ロングとショート、決済方法
先物取引には 2つのポジション があります。
- ロング(買い建て):日経平均が値上がりすると予想して「買う」
- ショート(売り建て):日経平均が値下がりすると予想して「売る」
👉 商品先物では「農家やメーカーの実需」が背景にありましたが、株価指数先物は完全に投資・投機の世界です。
決済方法は2種類あります。
- 最終決済(限月到来時)
満期=SQ日に精算する方法。- 株価指数先物:必ず差金決済
- 債券先物:現物の受け渡し(現引き・現渡し)も可能
- 反対売買による決済
限月(取引最終日)を迎える前に、反対売買で差額を確定する方法。
多くの投資家はこの方法で決済します。 その理由は:- これ以上損失を広げたくない(=損切り)
- 利益が出ているので確定したい(=利確)
- 先の相場が読めないのでリスクを減らしたい
👉 この柔軟性があるからこそ、多くの投資家が参加し、市場の流動性が高まっています。
4. SQ日と差金決済の例
金融先物には「限月」があり、その満期にあたる日を SQ日(Special Quotation day) といいます。
この日に清算値(SQ値)が決まり、差額を現金で精算します。
ラージ(1枚=日経平均 × 1,000円)の場合:
ロング(買い)=日経平均が上がると予想
- 得するケース(安く買えた)
建値:45,000円で買い
SQ値:46,000円
→ (46,000円 − 45,000円) × 1,000円 = 100万円の利益 - 損するケース(高く買ってしまった)
建値:45,000円で買い
SQ値:44,000円
→ (44,000円 − 45,000円) × 1,000円 = 100万円の損失
ショート(売り)=日経平均が下がると予想
- 得するケース(高く売れた)
建値:45,000円で売り
SQ値:44,000円
→ (45,000円 − 44,000円) × 1,000円 = 100万円の利益 - 損するケース(安く売ってしまった)
建値:45,000円で売り
SQ値:46,000円
→ (45,000円 − 46,000円) × 1,000円 = 100万円の損失
👉 ただし 日経225ミニ なら取引単位がラージの10分の1なので、同じ値動きでも ±10万円。
個人投資家にとってはミニの方が参加しやすいのです。
5. 債券先物の仕組み
債券先物の原資産は 国債や社債などの債券 です。
ただし実際の市場で主に取引されるのは 国債先物(とくに10年国債先物) であり、社債先物はほとんど存在しません。
- 原資産:債券(実務上は国債が中心)
- 取引単位:億円規模(例:10年国債先物は1枚=額面1億円)
- 現物が存在する資産:株価指数とは違い、債券は実際に現物があるため、
- 現引き/現渡し(債券そのものを受け渡すこと) が可能
- ただし実際の取引の多くは株価指数先物と同様に 差金決済 で行われる
- 利用目的:金融機関が金利リスクを調整するヘッジ手段として活用
👉 つまり、「債券先物=理屈としては債券全般を対象にできる」けれども、現実には 国債先物が中心。
6. 建玉(たてぎょく/たちぎょく)という言葉
先物やオプション取引では、まだ決済されていないポジションのことを 建玉(たてぎょく/たちぎょく) と呼びます。
- 「買い建玉」=買ったまま保有している状態
- 「売り建玉」=売ったまま保有している状態
ちなみに、この「建玉」の読み方にはちょっと面白い違いがあります。
私の経験上、
- 関東系(証券市場や三菱などの関東系金融機関) →「たてぎょく」
- 関西系(商品先物や住友などの関西系金融機関) →「たちぎょく」
と読む人が多いように思います。
あくまで私の体感なので、業界によっては逆に言う人もいるかもしれません。
――諸説あります(笑)。
7. 金融先物を生み出した人は誰?
ここでちょっと余談。
「大豆の仕組みをヒントに、株価指数や債券まで先物取引を広げよう」と考えた人は誰でしょう?
答えは レオ・メラメッド(Leo Melamed)。
1980年代にシカゴ取引所(CME)の理事長として、世界で初めて金融先物(株価指数先物)を実現させた人物です。
👉 商品先物の仕組みを応用し、「実体のない平均値を原資産にした取引」を可能にしました。
→頭良すぎるでしょ、この人!!
こうした発想はまさに 金融工学(Financial Engineering) の代表例。
👉 理系出身の人には、こうした“数理や工学の知恵を金融に応用する発明”から刺激を受けてほしいと思います。
→学校で学んだことは、あくまでインプットにすぎません。
実社会に出て、アウトプットとしてこうした仕組みを実際に作り上げる人こそ、本当に「頭が良い人」だと思います。
まとめ:金融先物の特徴と意義
- 金融先物の原資産は株価指数や債券
- 株価指数は現物が存在せず必ず差金決済
- 債券先物は現引き・現渡しも可能
- SQ日(ラージは3・6・9・12月第2金曜)に清算値で損益確定
- ミニなら損益は10分の1で個人投資家も参加しやすい
- 建玉(たてぎょく/たちぎょく)は未決済ポジションのこと
- 決済は「限月前の反対売買」と「最終決済」の2種類
- ロング=値上がり予想、ショート=値下がり予想
金融先物は「大豆のような実需に根ざした商品先物」とは異なり、完全に投機目的で考案された仕組みです。
しかし、その存在が市場を活性化し、流動性を高め、最終的には私たちの年金や投資信託の運用成果にも間接的に貢献しています。
次回は オプション取引 を取り上げ、先物との違いや組み合わせについて解説していきたいと思います。


