金融システム入門① 株式編
こんにちは。クラウン情報テクノロジーの増井です。
前回は金融システム全体を8つの業種に分けて俯瞰しました。
今回はさらに一歩踏み込み、金融商品の中でも最も基本となる 株式 をテーマに取り上げます。
株式投資のリターンには、大きく分けて次の3つがあります。
- インカムゲイン(配当益):企業が利益を株主に分配することで得られる配当金
- キャピタルゲイン(値上がり益):株価が購入時より上昇したことで得られる利益
- 株主優待:自社商品やサービス券などを株主に提供する制度(日本株では広く普及しているが、外国株式には基本的に存在しない)
株主優待は、個人投資家にとって大きな魅力のひとつであり、日本独特の投資文化でもあります。
一方で、外国株式には株主優待はなく、インカムゲインとキャピタルゲインが中心となります。
株式の魅力は、これらを享受できる点にありますが、その仕組みを支えるシステムは非常に複雑であり、正確さが求められます。
1. 株式の歴史的な起源
株式の仕組みは、17世紀のオランダ東インド会社にさかのぼります。
当時、船で香辛料を運ぶために「一船いくら」で出資を募り、航海の成功・失敗に応じて投資家に利益や損失を分配していました。
しかし航海の規模が拡大し、複数の船を運用する段階になると、「一船ごと」では資金調達が非効率となります。
そこで考え出されたのが、株式会社という法人を設立し、株式という形で出資を細分化して投資家に分配する仕組み でした。
これが現代の株式市場の原型です。
2. 国内株式のシステム
日本の株式取引は、主に東京証券取引所を中心に行われています。
- 売買の流れ:投資家 → 証券会社 → 取引所
- 清算業務:日本証券クリアリング機構(JSCC)が担う
- 保管・管理:投資家の株式は証券保管振替機構(JASDEC、通称 ほふり)が一元管理
かつては紙の株券を現物で保管し、売買時には「割付(どの株券が誰に渡るかを決める処理)」を行っていました。
2009年の「株券電子化」により完全に廃止され、現在は電子的に管理される仕組みに移行しています。
さらに株式取引には、約定ベースと受渡ベース という考え方があります。
- 約定ベース:売買契約が成立した日を基準とする(T日=Trade date=取引成立日)
- 受渡ベース:実際に株式と資金が交換される日を基準とする
現在、日本市場の株式決済は T+2(約定日から2営業日後に受渡し) が標準です。
たとえば決算日が 3月31日 の会社で株主優待や配当を受けたい場合、受渡ベースで3月31日時点に株を保有していること が条件になります。
つまり、3月29日(営業日ベースでT-2)までに買付約定を済ませておかないと権利を得られないのです。
加えて会計処理の観点では、日本はかつて 受渡ベース基準 で株式の売買を記録していました。
しかし国際会計基準への整合性を高めるため、現在は 約定ベース基準 に移行しています。
これにより、企業の財務諸表と市場の取引実務がよりスムーズに連動するようになりました。
3. 外国株式のシステム
外国株を日本の投資家が取引する場合、仕組みはやや複雑です。
- 米国株の例:NASDAQやNYSEなど現地市場で取引
- 証券会社経由で発注 → 海外の現地法人や提携先を通じて執行
- 決済通貨はドルなど外国通貨で、為替リスクが発生
- 保管は海外のカストディアン(資産保管機関)が担う
外国株の特徴は、株価の損益に加えて為替損益も同時に発生する ことです。
たとえば米国株をドル建てで保有している場合、株価が上がっても円高になれば、円換算で利益が減ることがあります。
そのため、為替リスクを抑えるために 為替ヘッジ取引 を組み合わせるケースもあります。
米国株式も基本は T+2決済 ですが、国内株よりも「時差・通貨・為替リスク」などシステム的に考慮すべき要素が多く、複雑性が高いのが特徴です。
4. 株式は「リスク資産」
株式は企業の業績や経済環境に左右されるため、リスク資産として位置づけられています。
元本保証はなく、価格変動や為替の影響を受けるため、リスクを避ける投資家はあえて株式を保有しない選択をすることもあります。
こうした特性を理解したうえで投資を行うことが求められます。
5. 投資判断に使われる指標:PBRとPER
株式投資では「割高か割安か」を判断するために、PBR(株価純資産倍率) と PER(株価収益率) がよく使われます。
- PBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)
株価が企業の純資産に対してどの程度の水準かを示す指標。
純資産は貸借対照表(B/S)の右下に記載される部分であり、株価が1株あたりの純資産の何倍で取引されているかを表します。

一般に PBRが1倍以下 の場合、株価が「1株あたりの純資産」を下回っていることを意味します。
たとえば会社を今すぐ解散して、保有している資産をすべて売却し、負債を返済したうえで残りを株主に分配したとします。
その分配額の方が、今の株価より多くなる、という状態です。
言い換えると、このまま株式を持ち続けるよりも、会社を解散して純資産を株主に返した方が得になる と考えられてしまうわけです。
この構造を利用して、いわゆる 「ものいう株主(アクティビスト)」 がPBR1倍以下の企業の株式を買い集め、「株主還元を強化せよ」「余剰資産を配当や自社株買いで株主に返せ」といった要求を突きつけることがあります。
具体的には、会社に積み上がった純資産を減らし、その分を株主への配当金や自社株買いに充てるよう迫る のです。
経営側がこれに応じれば株価は上がり、アクティビストは売却益を得ることができます。
そのため東京証券取引所では、PBR1倍割れが続く企業に対して、自ら積極的に経営改善や株主還元策を打ち出すよう求めています。
- PER(Price Earnings Ratio:株価収益率)
株価が企業の利益に対してどの程度の水準かを示す指標。
利益は損益計算書(P/L)の当期純利益に対応し、株価が1株あたりの利益の何倍で取引されているかを表します。

日本株市場全体では、おおむね PER14倍前後 が平均的な水準です。
これは「株価が利益の約14年分に相当する」という意味であり、理論的には14年かけて利益を積み上げれば投資元本が回収できる、というイメージになります。
一方、米国市場ではグロース株の比率が高いため、平均PERは日本より高めです。
特にNASDAQ100のようなテクノロジー企業中心の市場では、PERが30倍を超える銘柄も珍しくありません。
これは「将来の成長に投資家が大きな期待を寄せている」ことを意味します。
逆にPERが低い銘柄は、成長性に乏しいと見られているか、あるいは市場から割安に放置されている場合です。
このためPERは単なる数字ではなく、投資家がその企業の将来にどれだけ期待しているか を映し出す指標と言えます。
6. グロース株とバリュー株
投資家はPBRやPERといった指標を参考にしながら、株式を大きく グロース株 と バリュー株 に分けて考えることがあります。
- グロース株(成長株)
PERが市場平均(約14倍)より高いケースが多く、将来の利益成長を期待されている企業。
たとえば IT企業や新興市場の企業など、現在の利益は小さいが成長率が高い会社が該当します。
→ 「今の利益」ではなく「将来の拡大」を見込んで投資されるため、株価が高めにつきやすい。 - バリュー株(割安株)
PERやPBRが市場平均より低いケースが多く、現在の資産や利益に比べて株価が割安とされる企業。
成熟産業や景気に左右されにくい企業が多く、株主還元策(配当・自社株買い)を重視する傾向があります。
→ 「成長性」よりも「安定性」や「割安さ」を評価する投資スタイル。
このように PERやPBRの水準を平均と比較することが、グロース株・バリュー株を見分ける実務的な目安 になります。
7. 株価指数という“市場全体の物差し”
個別銘柄の動きだけでなく、市場全体の傾向を測るために用いられるのが 株価指数 です。
- 日経平均株価(日経225)
東証プライムに上場する代表的な225銘柄の「株価」をもとに算出する指数で、単位は 円 です。
テレビのニュースでは天気予報と同じくらいの頻度で報じられており、まさに“経済の天気”ともいえる存在です。
一方で「株価の単純平均」で算出されるため、株価が高い一部の銘柄(例:ファーストリテイリングなど)の影響を受けやすいという特徴があります。 - TOPIX(東証株価指数)
東証プライムに上場する すべての銘柄 を対象に、時価総額加重平均で算出される指数で、単位は ポイント です。
1968年1月4日の値を100ポイントとして算出が始まり、現在も連続して公表されています。
日経平均が「代表銘柄の動き」を示すのに対し、TOPIXは「市場全体の時価総額」を反映するため、日本株市場の全体動向をより包括的に示す指標 とされています。
そのため、年金基金や投資信託といった 機関投資家は日経平均ではなくTOPIXをベンチマークとして採用することが多い のが実情です。 - S&P500
米国の代表的な大型株500銘柄で構成され、世界中の機関投資家がベンチマークに採用する指数で、単位は ポイント です。
米国株式市場全体を映す最もスタンダードな指標とされています。
ただし近年では、アップル・マイクロソフト・アルファベット(Google)・アマゾン・メタ・テスラ・エヌビディアといった 「マグニフィセント7」 が時価総額の大半を占め、指数全体に強い影響を与えています。
このため実務では「S&P500」というより、これら7銘柄を除いた S&P493 で市場全体を見よう、という考え方も生まれています。 - NASDAQ100
NASDAQ市場に上場する非金融の代表的な100銘柄で構成される指数で、単位は ポイント です。
GAFAなどのテクノロジー企業が多く含まれ、成長株(グロース株)市場の象徴 として注目されています。
PERが高めになりやすい銘柄群で構成されており、日本株の平均PER14倍前後に比べ、30倍を超えることも珍しくありません。
これら株価指数は投資家にとって市場の健康状態を測る物差しであると同時に、株価指数連動型商品(ETFや先物など) の基盤にもなっています。
システム的には、指数を正確に算出・公表するインフラが、市場全体の信頼性を支えています。
8. プライベートエクイティという選択肢
株式投資は取引所を通じた「公開市場(パブリック・マーケット)」が一般的ですが、近年注目されているのが プライベートエクイティ(未公開株投資) です。
未上場企業の株式を保有し、成長を支援しながらリターンを狙う投資形態で、国内外の機関投資家が積極的に取り組んでいます。
システム面では、公開市場のように統一された取引所がないため、契約管理・資金フロー管理・投資家情報の正確なトラッキング など、異なる要件が発生します。
まとめ:株式システムは多様な形を支える基盤
株式はもっとも基本的な金融商品であり、その起源は「一船いくら」の出資から、東インド会社による株式会社化にまでさかのぼります。
国内株と外国株で仕組みに違いはあるものの、共通して求められるのは 「正確さ・スピード・信頼性」 です。
現物株券時代の「割付」処理から電子化、そして T+2決済と受渡ベースでの権利確定 に至るまで、株式システムは常に進化してきました。
また日本の会計も、かつては受渡ベース基準でしたが、現在は約定ベース基準に改められています。
株式はリスク資産であり、PBR・PERやグロース株・バリュー株といった指標に基づいた投資判断があります。
さらに市場全体を示す株価指数(日経平均・TOPIX・S&P500・NASDAQ100)が存在し、外国株では為替リスクやヘッジも不可欠です。
加えて、公開市場だけでなくプライベートエクイティという選択肢も広がっています。
システムの現場では、
- 株式の上場・廃止・合併・併合・社名変更・株式分割 などの各種イベント
- 毎日の終値を使った簿価からの時価評価や為替評価
- 権利確定日(配当落日)から実際の配当金受取日までの未収配当金の管理
といった処理が日々発生し、システムへのインパクトは極めて大きいものです。
したがって金融システムには、スピードだけでなく 正確性と安定性 が強く求められます。
当社クラウン情報テクノロジーでは、この複雑な業務知識を蓄えたエンジニアが最前線で活躍しており、今後もそうした仲間を求めています。
単なる技術力にとどまらず、業務の背景を理解したエンジニアこそが、お客様に真の価値を届けられる。
私たちはそのような人材を育てることに誇りを持っています。


